非日常系学園ドタバタラブ(?)コメディ
悪魔が来たりて〜
第二話 『闊歩する異常』
 ………暗い。
 どこまでも暗い。

 ………ここはどこだ? 何でおれはこんなとこに?
 ワケが分からずにきょろきょろと辺りを見回していると、目の前にふっと肌色の何かが出現した。

「お兄ちゃん………」
「渚? って、お前なんて格好してんだ!?」

 なんと、目の前に現れたのは全裸の渚だった。

「あはは、何言ってるの。お兄ちゃんだって裸じゃない」
「は?」

 自分を見下ろす。
 ………確かに裸でした。
「つーか何でじゃ〜!!!」

 思わず頭を抱えたおれに、渚が事も無げに言う。
「お風呂入るのに服着てたら逆におかしいでしょ」

 かぽーん。
 突然、そんな音が聞こえたかと思うと、真っ暗だった世界が風流な露天風呂に変わった。
 なぜかヤシの木が生えているが、そうか、ここって南国だったっけ?
 そう言えば、太陽が燦々さんさんと照り付けている。

「………う〜む、つまり」
 ここは南国で風呂場で、おれ達兄妹はその風呂に入ろうとしているワケだ。

「うむ、納得」
「うふふ、どうしたの? 坂上君」
「いや、どうも頭が混乱をしてたらし………って、宮崎ぃっ!!?」

 うふふ星人がいた。
 やっぱり裸で。

「ふふ、そんなに喜ばれると恥ずかしいわ」
「喜んでねぇっ!!!」
「照れなくてもいいじゃない、坂上君」
「そうだよ、お兄ちゃん。由利子さんが一緒だってあんなに喜んでたじゃない」

 はあ!?
 宮崎が一緒でおれが喜ぶ?
 バカな!!
 ありえねぇ!!!

「まぁ、いいじゃない。はやくお風呂入ろ」
 再び頭を抱えたおれの腕をとり、渚は風呂へと引っ張ろうとする。

「ぬおっ!?」
 これがなかなか力強い。踏ん張っても逆らえない。ずりずりと引っ張られる。
 渚のやつ、いつの間にこんな力をつけたんだ?

「うわ、ちょ、ま、待てって………」
 ずりずり、ずりずり、ずりずり。

「ほらほら、お兄ちゃん」
 ずりずり、ずりずり、ずりずり。

「こ、こら………」
 ずりずり、ずりずり、ずりずり。

「お兄ちゃん、こっち来て」
 ずりずり、ずりずり。

「お兄ちゃん」
 ずりずり。

「お兄ちゃん」
 ずりずり。

「お兄ちゃん!」
 ずりずり。

「お兄ちゃん!」
 ずり…

 ずって〜ん!!!
「ぐはっ!!!」

 景色が暗転し、衝撃に息が詰まる。
 な、なんだ? いったい何が………

「ほら、お兄ちゃん。起きて」
「んが………?」

「もう、いつも学校で寝てるみたいなのに家でも寝足りないの?」
 制服姿の渚がおれの腕を掴んで、見下ろしていた。
「あれ、渚。風呂入るんじゃなかったのか?」
「は? 何言ってるの、お兄ちゃん」

 呆れた様な表情でおれを見下ろす。いや、実際に呆れてるのか。

 ………あー、あれか。
 つまるところ、夢を見ていたワケか、おれは。
 と言うか、

「何で床で寝ているんだ?」
 そう。いかなる理由か、おれは床の上で大の字だった。

「だ〜って、お兄ちゃん揺すったくらいじゃ起きないんだもん」
「要するに貴様が原因か」
「違うよ」
「あれ、違うのか?」
「起きないお兄ちゃんが原因なんだよ」

「ほほぉう」
 ゆら〜り。
 おれはゆっくりと起き上がる。渚は何かを感じたのか、手を離して後ずさった。

「な、なに? お兄ちゃん、目が据わってるよ」
「くっくっく………いずれ兄の偉大さを教えてやらねばならぬと思っていたのだ」
 にじり。

 じりじりと近づくおれから、じわじわと逃げる渚。
 無防備な後ろを見せないように懸命に後ずさる様が実に健気だが………

「関係ねぇ! 覚悟〜!!!」
「きゃあああああああ!!!」

 おれは渚にびょ〜んと飛び掛り、

 ズバァァァン!!
「やかましい!! 朝から近所迷惑だぞ、一也!!!」

 親父のゲンコで叩き落とされた。



第二話 『闊歩かっぽする異常』



 場所はダイニングに変わり………

「親父、帰ってやがったのか」
「ん? なんだ、俺が帰ってきたらマズイ事でもあるのか? また黒須の小僧と何か
 やらかしたんじゃないだろうな?」

 ギクリ。

「い、いや、何も」
「ふ〜ん、渚。本当に何もないか?」
 思わずどもってしまったおれから視線を外し、親父は渚に問いかけた。

「うん、何もないよ。お兄ちゃんは照れ屋だから、『お父さんが帰ってきてくれて嬉しい』って
 素直に言えないだけなんだよ」

 わお! 妹よ、素敵な弁護ありがとう。
 だが、真実が一欠片ひとかけらも含まれていないのはいかがなものか。

「わはははは、そうかそうか。一也にもそんな殊勝な一面があったとはな!
 父さん、ちょっと感動したぞ!」

 てーか、素直に信じてるし。ありえねぇ。それでも現職の刑事かよ。
 喜ぶ親父と呆れるおれの前に、スクランブルエッグとトーストが差し出される。

「お兄ちゃん、早く食べてね」
「ん、何で?」
「時間。もう余裕ないよ」

 オウム返しに聞き返したおれに、渚は時計を指差して答えた。
 現在8時5分。
 なるほど、学校まで歩いて15分であることから逆算すると、飯を食べる時間は10分
しかないことになるな。

「渚は?」
「先に食べたよ」
「親父は?」
「お前がどたどたする音で起きたんだよ。まったく、徹夜明けで眠たいってのに………」

 また張り込みか何かしてたのか。ご苦労なこった。
 てーか、どたどたと音をさせた原因は渚なんだが………まぁ、いいか。
 どのみち何を言ったところでおれが悪者にされるんだ。

「だから、早く食べてね」
「はいよ」
 つーワケで、朝飯を猛スピードでかっ食らい、渚と一緒に家を出た。





 通学路にはいつもと違う血湧き肉踊る冒険が待っているワケもなく、渚と二人、
いつもにように平和に歩いていた。

「それにしても、昨日は大変だったね。お兄ちゃん」
「そうだな………」

 まぁ、思ったより迷惑を被っていないから良しとしよう。
 むしろ、紗羽人に呼ばれた悪魔の方がよっぽど迷惑を被っている気がするし。

「あ、そうだ!」
「ん? どうした?」
「あのね、私今日は部活が遅くなるから…」
「ああ、そっか。今日は弓道部の日か」
「うん」

 渚はスポーツ万能である。て言うか、万能過ぎるくらい。
 そのあまりの性能の良さに学校が部活の掛け持ちを認めるほどに。
 と言うわけで、うちの学校でいい成績を残す運動系上位3部、陸上・バスケ・弓道
の全てに在籍しているのである。

 そして弓道部は現在、近く行なわれる全国大会の地区予選に向けて余念が無い。
自然、その帰りも遅くなる。

「だから、晩御飯はコンビニとかで…」
「あー、すきっ腹を抱えて渚の帰りを待つ」
「あのね…」
「家に帰ってきた渚を死んだ魚のような濁った目で迎えてやる」
「う〜、そんなんだったら先に食べててよぅ」

「朝から仲がいいな。確か………一也に渚、だったか?」

 そんなおれ達にかけられる声。
「んあ? 誰だ………って、昨日の悪魔!?」

 そう。そこには昨日の夜、紗羽人に追い詰められて涙まで浮かべていた“あの”
悪魔が立っていた。
「うむ。出門でもんと呼んでくれていい」
「そか、おはようさん。デモン」
「おはようございます。デモンさん」
「何か微妙に伝わっていない気もするが、まあいい。おはよう」

 デモンは大仰に頷く。しかし………

「で、何故にお前はそんな格好をしてやがる」
 あろうことか、デモンは学ランなんぞを着てやがった。しかも、うちの学校のだ。

「学校に通うにはこれを着なければいけないと紗羽人が言っていたのだが、違うのか?」
「いや、違わない。違わないが、しかしな………」
「へ〜、結構似合うね、学ラン」
「うむ、そうか? ありがとう」

 渚に褒められて、デモンはさわやかに微笑んだ。

「いや、そうでなくて」
「む?」
「まるで、うちの学校に通わんばかりの勢いじゃないか」

「通うのだから仕方ない」
「ああ、なんだ。そーなのか」

 そうか、うちの学校に通うのか。それなら学ランを着ているのも納得だな。
 そうかそうか………

「ってマテや、コラ! お前みたいのが高校生でまかり通るほど人間社会は優しくねぇぞ!!」

 2メートルを軽く超える巨体。禍々しい角、尻尾、翼!
 そもそもの見た目から人間じゃねぇ!

「そうよねぇ。そのヒゲはどうかと思うわよ。」
「違うだろ!」
 ボケる渚に突っ込む。我が妹ながら涙が出るほどバカだ、こいつ。

「お前も悪魔なら悪魔らしく人間に化けたりとかしろよ!」
「そうは言われてもなぁ。身体変化は骨格に悪影響が出るから使うなと整体の先生に
 止められているのだ」
「整体?」
「うむ、少々腰を悪くしてな。通ってみたら、身体変化の使いすぎだと言われた」

 よ、腰痛持ちかよコイツ………

「なんか、とことんまでにイメージを壊してくれるよなぁ、アンタ」
「む? あまり褒められている気がしないのだが」
「むしろけなしてんだよ!」

「む、そうか………」
 デモンは、明らかにショボンと肩を落とすと、悲しげな溜息をついた。

「あー、お兄ちゃんったら酷いんだ」
「は?」
「人の容姿を悪口にしちゃいけないんだよぉ」
「いや、こいつ人じゃないし」
「差別するんだ」
「差別って、お前な…」

 人として至極正しい意見だとは思うのだが、心が納得できない。

「お兄ちゃんがそんな酷い人だったなんて、よよよ」
 膝から崩れ落ち、女座りをして泣きまねをする渚。

「わざとらしく『よよよ』なんて泣くな!」
「じゃあ、めそめそ」
「一緒だ! しかも『じゃあ』とか言うな!」
「ぶー、つまんなーい」
「お前を楽しませようとしてるワケじゃねぇ!!」

「あ〜、一也に渚。漫才をするのはいいのだが、そろそろ時間が…」
「漫才してるんでもねぇよ!! …って、時間?」
「ああっ、いっけない! もうすぐ予鈴の時間だよ、お兄ちゃん!」

 渚があわてて立ち上がり、おれの手を引っ張って走り出した。
「うわっ! こら、渚…」
「はやく、はやく!」

 これが思いの他力強く、おれはややつんのめる様にして渚の後を追う羽目となった。
「おわっ、ま、待てって渚…」
「あははは、ほらほら!」

 足のギアがトップに入った渚は、おれのささやかな抵抗をものともせず、
一筋の弾丸と化して学校を目指す。
 しかし、何か忘れている様な気がするんだが………まぁいいか。





 そうして、おれと渚は見事予鈴に間に合うように学校に辿り着いた。
「はぁい、とうちゃ〜く」

 渚は「何故?」と聞きたくなるほど嬉しそうに校門をくぐる。
 俺はと言えば、情けないことに息が上がり、ぜえぜえと肩で息をしていた。
 と言うか、おかしい。約5分間の全力疾走で息を乱さないコイツがおかしいのだ!

「? どしたの、お兄ちゃん」
「ど、どう、したも、こうしたも、お前…」

 喋ろうとする意思に逆らい身体が酸素を求める為、声が途切れ途切れに出る。
「ず、ずっと、全力で、走ってきた、のに…」
「ふえ? 全力?」

 不思議そうに首を傾げる渚。
 ………まさか、今のは全力じゃなかったと………?
 なんだか急に気が遠くなってきた。目の前の景色がかしいでいく。

「な、何で、やねん………」

 狭まる視界の中、ぼんやりと映る渚の姿。
 それすらもどんどんと斜めに倒れていく。

「お、お兄ちゃん!?」
 誰かが叫んでいる。それから、バタバタという音。

 ばふっ。

 次いで、誰かに抱きしめられる感触。
 ああ、なんか柔らかくて気持ちいいなぁ………

「お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!?」
「うふふ、見〜ちゃった♪」

「え? あ、ゆ、ゆ、由利子さん!?」
 もうほとんど聞こえない耳に誰かの声が聞こえ、おれの身体を抱きとめる柔らかい
感触が消え、そして………

 べちっ!

 一瞬の後にやってきた激しい衝撃に、おれは完全に意識を手放した。





 ───
 闇に沈んでいた意識が、光を求めて浮上する。
 大きな布の様な、どろりとした膜の様な『何か』に身体を引っ張られながらも、
徐々に力を込めてそれらを引きちぎる。
 目前には白い光。おれは、その中に飛び込むように浮上して………

「う、うあ………?」

 あれ?
 ………暗い。白い光につつまれたハズなのに、明るいのに見えない。
 てーか、おれは目を閉じていた。おや?
 やたらと重たいまぶたを、なんとかこじ開ける。
 そうして目に入ったのは真っ白な天井。そして鼻を突く消毒液の臭い。そこは、

「………保健室?」
「あら、目が覚めた? 坂上君」

 ぎいっ、と音がする。
 気だるさに支配された体をなんとか動かしてそちらに顔を向けると、我が校の保健医、
川原琴子かわはらことこ先生が椅子を回してこちらを見ていた。

「あ、おれは………?」
「校門で倒れちゃったみたいね。軽い酸欠と疲労よ」

 ああ、何か思い出してきた。おれは全力疾走で力尽きて肩で息をしていたと言うのに、
頭の中まで筋肉で出来ている我が妹はそんなおれをせせら笑ったんだ。
 …何か微妙に違う気もするが、たいした間違いじゃあるまい。

「それにしても妹さん、渚ちゃんだっけ? 仲がいいのね?」
「へ?」

 琴子先生の突然の言葉におれは呆けた返事を出した。

「涙を流しながら『お兄ちゃんを助けて』って走りこんで来た時は何事かと思ったわ」
 琴子先生はくすくすと笑いながら何かを思い出している。

「は、え?」
「ただの疲労だからってなだめて教室に戻ってもらうのに苦労したのよ?」

 そう言って、おれに満面の笑顔を見せた。

「愛されてるのね、お、に、い、ちゃ、ん?」
「うぐっ!」

 瞳にいたずらな光を宿した琴子先生の言葉に、おれはぐうの音も出なかった。
 と言うか、起きぬけにそんな色々と話されても混乱するっちゅーねん。

「んふふふ、顔真っ赤にしちゃって、可愛いわぁ」

 ………なんだろう………おれは、何か絶対に握られちゃいけない弱みを、
絶対に握られちゃいけない人に握られてしまったような気がした。
 なんでおれはこんなに冷や汗をかいているんだろう?
 なんだか理不尽な気持ちで胸がいっぱいになった。

「それでどう? 何か体におかしなところとか、ない?」

 おれが渋面を作っていると、琴子先生は突然真面目な顔になりそんなコトを言った。
 いや、どうでもいいんだけど、切り替え早くないか?

「う、と、特にないです」
「そう、じゃあ教室に戻りなさい。今から戻れば3時限目には間に合うわ」

 言われておれは時計を確認した。時間は10:45。

「う〜ん、だるいなぁ。どうせなら昼まで…」
「あら、嬉しいわ。授業をサボってまで私と一緒にいてくれるなんて」
「ありがとうございました! さっそく教室に帰ります!」

 おれは脱兎の如く保健室から逃げ出した。
 ムリ。何ていうか、あの保健室がライオンの檻と同等かそれ以上のものに思えた。

 きーんこーんかーんこーん………

 とぼとぼと廊下を歩く敗残兵おれの耳に響くチャイムの音。2時限目が終わったようだ。
 人気の無かった廊下に、授業から解放された生徒達が現れ始める。
 それはだんだんと量をまし、廊下の人口密度が徐々に上昇していく。
 しかも、不思議なことに人口密度はおれの教室に近づく程高くなっていった。

「………どういうことだ?」

 最終的には進むことすら出来なくなったおれは、呆然とつぶやく。
 なんなんだ、この人垣は?
 おれの教室でウルトラマンがタップダンスでも踊っているのか?

「………そりゃおもしろそうだ」

 おもしろい。おもしろいがだがしかし。問題はそんなコトではなく、おれはいつまで
ここで立ち尽くしてればいいんだろうかという話。
 精神的に疲れ果てたおれに、休息の日々は来ないのか?

「うふふふ、さ〜かが〜み君♪ 今朝はごちそう様」

 そして、立ち尽くすおれに背後からかけられる馴染みの声。
 ………おお神よ。おれがそんなに憎いのか? 疲れ切ったおれに、この上こんな
試練を与えるなんて。
 おれに死ねと? 死ねとおっしゃるか、神よ!

「あら、どうしたの? 顔がおもしろいわよ、坂上君」
「ほっとけや!」
 叫び振り返った先には、違って欲しいというおれの願いも虚しくうふふ星人宮崎の
姿があった。

「………はぁ、ついてねぇ」
 思わず天を仰いだ。まぁ、目に入るのは薄汚い廊下の天井だけだが。

「うふふ。またまた、そんな心にも無いこと言っちゃって」
「何が」
「今朝、渚ちゃんとあつ〜く抱き合ってたの、見ちゃったんだから」
「は? 何でおれと渚が抱き合うんだよ」
「それは、愛よ! 兄妹という越えられない壁が、二人の愛をより燃え上がらせるの!」
「だまれ、うふふ星人。そして帰れ、うふふ星に」

 ああ、なんて言うかこの目の前の生き物に殺意を抱くのは、おれの罪でしょうか?
 こぶしを握り締め、おれはこみ上げてくる何かを必死で抑える。
 すぅはぁと深呼吸をし、心を落ち着けて言葉を選び、舌の上に乗せた。

「で、宮崎。お前、この人垣の理由を知ってるか?」
「ん〜、何かしら? 今の時期に珍しい転校生がうちのクラスに来たけど、
 とくに変わったコトは無いわよ」

 それだ、それそれ!!!

「転校生?」
「ええ。確か、出門君だったかしら」

 ああ、なんとなく想像はしてた。今朝通学路で会った時に、あの学ラン姿を見てから、
確かに何かを感じていたんだ。

「ちなみに、デモンの見た目について、クラスの連中は何か言ってなかったか?」
「容姿?」

 おれの質問に、宮崎は不思議そうな顔をして小首を傾げた。
 何でそんなコトを聞くのか分からないといった風情だ。

「ん〜、ヒゲが長いわね。うん、あれはヒゲが濃いんじゃなくて、長いの」
「いや、お前の主観はどうでもいいし」
「他は特に無いわよ」
「そうか………」

 あの見た目で何も言わない………ってことは、悪魔チックな魔法かなんかでごまかし
てんのかな?
 多少は悪魔らしいトコがあったんだな。デモンにも。

 きーんこーんかーんこーん………

「あ、休み時間が終わった………」
 休み時間の終了のチャイムが鳴ると、水に溶ける片栗粉のように人垣が消えていく。

「ようやく休めるのか」
 がんばった。うん、おれはがんばったよ。

 足取りも重く教室に入ったおれが目にしたものは、普通に居並ぶ生徒達の中、妙に
目立っている二人組みだった。
 まぁ、言わずもがなの紗羽人とデモンだが。

「ん? 一也か。おはよう、今朝はなにやら一悶着あったみたいじゃないか」
「まぁな。ってーか、お前等、何してんだ?」

 紗羽人とデモンは机をつっつけて座っていた。机と机の境目にはご丁寧に、次の授業
である化学の教科書が一冊だけ置かれている。

「何と言われても、もう授業が始まるし、授業の準備に決まってるじゃないか?」
「いや、まぁ、そうなんだが………って、デモンが座ってる席は確か石倉君の席では?」
「はっはっは、何を言ってるのだ、この席は出門君の席だよ、一也」
「そりゃおれのセリフだ。明らかに石倉君のだろ」
「石倉なら、ほれ、あそこに」

 紗羽人が指差した先には………

「うっうっうっ………黒須君、いい加減あの写真を返してくれよぅ………」

 隅っこの席で膝を抱えてめそめそする、サッカー部のエースストライカー、いがぐり頭が
トレードマークのスポーツマン・石倉君の姿があった。

 しゃ、写真………?

 どうやら石倉君は紗羽人に何か弱みを握られ、席を奪われたらしい。
 しかし、よりにもよって紗羽人に弱みを。
 ………可哀想になぁ。

 などと考えていると、

 ガラガラ…
「はぁい、みんな席につきなさ〜い」

 出席簿を手のひらでぱんぱんと叩きながら、化学の教師が教室に入ってきた。
 さかきあずさ先生。

 琴子先生とツートップを張っている我が校のアイドル教師。
 要するに、ルックスが良いのである。美人の榊、可憐の川原。それでいて、二人とも
性格に嫌味がない。
 当然のように生徒の人気も高い。かく言うおれも「いいなぁ」とは思っていたが、
琴子先生の本性は今朝知ってしまったからなぁ………複雑だ。

「はい、それじゃあ今日は教科書の76ページから…」

 そんなおれの葛藤とは何の関係も無く、普通に授業が始まった。
 ついでに、紗羽人のスマート作戦も始まったようだ。
 紗羽人よりも後ろの席に座るおれには、その様子がまる見えだった。

「それじゃあ、教科書を次のページに進みますね」

 あずさ先生が声をかけると、教室のあちこちからページをめくる音が聞こえる。
 しかし紗羽人はページをめくろうとしない。ちらちらとデモンを見ているようだが…?

 それでも授業はどんどんと進むわけで、とうとうデモンが教科書に手を伸ばした。
 するとどうだろう。それを見計らっていたかのように紗羽人も教科書に手をやり、
 二人の手が重なる。
 はっとしたような表情で互いを見る二人。
 それから、紗羽人はうっすらと頬を染めると、口に手をやり俯いてもじもじしだした。

 ………え〜と。

 ………。

 ………見なかったことにしよう、うん。

 なんか、デモンが助けを求めるようにきょろきょろと辺りを見ている様な気がするが、
気のせいだ。そうに違いない。

 結局、授業中ずっと。

 あずさ先生が教科書を読み進める度に同じようなコトが繰り広げられたが、気のせいと
言うかおれの見間違いなのだろう。きっとそうだ。

 授業が終わった時、デモンが肩を大きく揺らして溜息をついたのは、果たして何に疲れた
せいなんだろう?
 ………いや、おれの考えることじゃないな。忘れよう。

 その後、4時限目の歴史の授業も無事(?)に終わり、昼休みになった。
 そして、なぜかは知らんがおれ達5人は屋上にいた。
 つまり───おれ、渚、宮崎、紗羽人、デモン。

「あら、渚ちゃん、その玉子焼き美味しそうね」
「じゃあ、由利子さんのウインナーとトレードしませんか?」
「うふふ、いいの?」
「もっちろんです!」

 仲良く弁当をつつき合う渚と宮崎。………まぁ、これは良しとしよう。

「なぁ、出門君。この金平ゴボウの味はどうだい?」
「………う、美味いな」
「それじゃあこっちのエビシューマイはどうだい?」
「う………これも、美味い」
「ああ、このハンバーグなんかは」

 なんだろう、この異世界は。

「? どしたの、お兄ちゃん。………お弁当、美味しくない?」
 少したそがれていたおれに、渚が声をかける。その表情は不安に曇っていた。

「ん、いやそんなコトはないぞ」
「そう?」
「ああ。ちょっと神秘の世界を垣間かいま見てただけだ。弁当は美味い」
「そっか、良かった」

 安心したのか、吐息をつく渚。
 おれが見た神秘の世界については不問のようだ。

 ………いや、まぁ、いいか。あの異世界がおれに何かを及ぼすわけでもないし。
 デモンには可哀想だが、おれはおれで、昼飯を楽しもう。
 渚の笑顔を見て、そう思った昼休みだった。

「うふふ…坂上君たら、いい笑顔ね」

 とりあえず、バカは意識から排除して。





 そして放課後。

「おい、どういう了見だ、紗羽人」

 おれは紗羽人に校舎裏まで連れてられて来ていた。

「うん、今後のプランを話しておこうと思ってね」
「プラン?」
「そう。僕がデモンと結ばれる為の、スーパープランさ」

「スーパー………プランねぇ………」

 溜息が漏れる。
 もしかして、今日みたいなのが延々繰り返されるんじゃないだろうな。
 ………ちょっとだけデモンに同情した。

「なんだい? 一也は僕がデモンと結ばれるのが嫌なのかい?」

 何故か嬉しそうな顔でそんなことを言いやがる紗羽人。
 愛されるって辛い、とか呟くな!

「いや、大変結構だ。聞こうか」
 デモンへの同情はキレイさっぱり消え去った。やはり自分が一番大切だ。

「うむ、作戦は全部で5つだ」
「そんなにあるのかよ」
「弘法も筆を誤る、という言葉もある。念には念をいれるさ」

 その情熱をもっと別の、何か社会に益のあることに向けられないのだろうか。

「まず、一つ目は………」





 翌日。
 おれはデモンを伴って理科準備室に向かっていた。

「何をするのだ?」
「授業で使う地層の模型を取って来るんだよ」

「ふむ………?」
 デモンは、あごに手を当てて考え込む。

「何だ、どうかしたのか?」
「いや………そういう事は、『日直』という役職についた者の仕事ではないのか?」

 うお、デモンのクセにするどい!

「まぁ、別に絶対に日直がしなきゃいけないってワケでもないし」
「しかし一也。今日の日直である小橋君が動こうとしていたのを制したのは君では
 なかったか?」

 しかもよく見てやがる。デモンのクセに。
 何か、何か言い訳を考えないと。

「いやいや、実はな、小橋君は………」
「ふむ、小橋君は?」

 考えろ。考えるんだおれ!
 今、おれはかつてない程に脳ミソをフル回転させていた。

「小橋君は、実は………」

 そこで、ハタと冷静になる。なんでおれがこんなに苦労せにゃならんのだ。
 適当でいいや。

「小橋君は後天性理科準備室アレルギー症候群にかかっているんだ!!」
「な、なんと!?」
「それはかくも恐ろしい病気。理科準備室に入っただけで、発熱、嘔吐、下痢を発症し、
 24時間以内には呼吸障害まで起こしてしまうのだぁ!!!」

 なんかもうヤケ。ヤケです。

「な、なんということだ! 小橋君はそんな恐ろしい病気にかかっていながらも、
 そんなコトを微塵みじんも感じさせないように振舞っていると言うのか!」

 あれ? ………もしもし、デモンさん?

「私は、私はそんなコトも分からずに………うおおおお、小橋君、申し訳ない!!!
 私は、私はぁ!!!」
「お、おい。落ち着けデモン!」
「うおおおおおお!!!」

 それから、興奮したデモンをなだめるのに数分を要し、理科準備室に付いた頃には休み時間が
終わろうかという時間になっていた。

「えーっと、模型、模型………」
「む、これかね? 地層の模型のようだが」
「いや、それじゃなくて、海洋プレートのヤツだと思うんだよな」
「では、こちらの模型かね」
「お、それそれ。じゃ、持ってくか」

 おれはデモンが抱えていた模型をひったくると、ダッシュで準備室を飛び出した。
 無論、これはデモンに対する気遣いなどではなく。

「デモン、急がないとチャイムが鳴るぞ!」
「う、む? わ、分かった」

 おれの突然の行動に、思考が追いついていないデモン。
 今のデモンには、紗羽人のアレを避けることなど出来はすまい。
 そこまで考えてのこの作戦だとすれば………紗羽人、恐ろしいおとこだ。

 とにかく、おれとデモンは教室に向かって走る。
 模型を抱えて走りづらそうなおれを気遣ってか、デモンはこちらをちらちらと振り返りながら
前を走っている。
 う、いいヤツだ。自慢じゃないが、おれの周りにこんな気遣いの出来る人間はいない。
 ………本当、自慢にならんな。

 とにかく、そのデモンをこれからの紗羽人の作戦のためにおとしいれた。
 おれは、自分の保身のために、デモンを紗羽人に差し出したのだ。

 ちょっとだけ、胸が痛んだ。

 そして、その時はおとずれる。
 おれとデモンは、廊下の曲がり角に差し掛かった。
 ………感じる。あそこだ。あの角だ!

 デモンがやはりこちらを気にしながら角を曲がり、

 ドカァァッ!!!

 ピンポン玉よろしく弾け飛んだ。
 そして…

 ゴシャアッ!!

 鈍い音を立てて壁にぶつかるデモン。そのままふわりと壁から離れると、デモンの体は
重力にまかせて床に落ちた。

「デ、デモォォォォォン!!!?」

 慌てて駆け寄る。
 ど、どういうコトだ!?
 おれが聞いた作戦では、紗羽人と「廊下を曲がった所で運命的にぶつかる」はずなのに?
 現実では、デモンは目の前でピクピクと痙攣けいれんしていた。

 はっ? さ、紗羽人は? 紗羽人はどうなってる?
 目をやると、

「あ、痛い…」

 と、乙女座りをして下手な演技を決める紗羽人がいた。

 いや、まあ下手な演技はいいんだが。
 お前、どうやってデモンを吹き飛ばした?
 ただぶつかっただけでここまでは飛ばねぇだろう。

 きーんこーんかーんこーん………

 何だかチャイムが耳に遠く聞こえる。
 目の前には血まみれで痙攣するデモン。
 隣には乙女座りの紗羽人。

 海洋プレートの模型を両手で抱え、致死量としか思えない血の海を前にして。
 おれは途方にくれたのだった。





 ───数日後。
 おれは、昼休みに男3人と顔を突き合わせていた。

「作戦の詳細は理解してくれたか?」
「ばっちり」「おう」「あいさ」

 おれの言葉に即座にうなづく3人。
 ふふ、頼もしい奴等だぜ。

 この日は、紗羽人の作戦その2が決行される日だった。
 作戦の内容は、「不良3人にからまれるデモンを紗羽人が助ける」というもの。

 デモンに因縁をつけられる勇気ある不良がいたら見てみたいものだが、これはあくまで
作戦なので本当に不良である必要はない。
 不良の手配はおれの役目になってしまったので、演劇部の霧沢君と、柔道部の吉田君、
将棋部の近藤君の3人に頼み込んで不良役を引き受けてもらった。

 ちなみに、メンバーのチョイスは意図的なものではなく、おれの友人の中で引き受けて
くれたのがこの3人だったというだけである。

「さて、それじゃあ………」
「うん、衣装を配ろうか。演劇部のとっておきだよ」

 そう言って霧沢君は紙袋から衣装を出すと、各自に配る。
 それは、
たけが長くて何故か裾に擦り切れたように切れ目の入った学ランだったり、
腕に『天上天下唯我独尊』とプリントされ、何故かちらほらと返り血を浴びている白ランだったり、
長さ30cmを超えるリーゼントかつらだったり、
直径60cmはあろうかというアフロかつらだったり。

「………とっておき?」
「最高だろ?」

 どうにか腹の底からしぼり出したおれのうめきに、霧沢君は間髪入れず返してくれました。
 そりゃあもう、いい笑顔で。

 なんか、既にここから作戦が失敗している気がした。



 で、放課後。
 おれは、デモンと対峙する3人を固唾かたずを飲んで見守っていた。

「おうおう、出門の兄ちゃんよぉ。何とか言ったらどうなんだ、ああ?」
「そうだそうだ、何とか言ったらどうなんだ、ああ?」
「右に同じく、ああ?」

 人通りの少ない体育館裏である。
 昼休み、デモンの机に『体育館裏で待っている』という手紙を忍ばせた。
 そして、放課後にやってきたデモンに霧沢君(リーゼント)と吉田君(アフロ、擦り切れ学ラン)、
近藤君(ポマード着用、白ラン)の三人が因縁をつけている、という塩梅あんばいだ。

「ふむ、これはあれかね? 私は『不良の呼び出し』というものを受けたわけかな?」

 デモンはあごに手を当てて、むしろ余裕綽々よゆうしゃくしゃくといった感である。

「てめえ、気にいらねぇんだよ!」

 霧沢君は、一歩前に出ると頭を下から上に振ってねめつけた。なかなか、迫真の演技である。

「そうだそうだ、気にいらねぇんだよ!」
「右に同じく」

 そして、それに追従する吉田君と近藤君。・・・こっちはダメっぽい。
 あ、でもザコっぽさは出てるから、これはこれでいいのか。

「ふむ、よかろう。かかってきたまえ」

 デモンは学ランを脱いで近くの木の枝に掛けると、カッターシャツのボタンを上から2つほど
外して首もとを緩めた。
 その体からは、オーラとでも言えばいいのだろうか。とにかく威圧感たっぷりの何かが発せられて
いて、遠くから見ているだけのおれですらちょっとびびった。
 当然、間近にいる3人組は・・・

「な、て、てめえ、やる気か!?」
「こっちは3人いるんだぞ!!」
「そうだそうだ、3人なんだぞ!?」

 思いっきり腰が引けていた。
 まぁ、仕方あるまい。おれには彼等を責めることなんて出来ない。
 いくらデモンとはいえ本物の悪魔なのだ。
 その悪魔に人間がケンカを売ること自体が間違っているのだ。

「構わんよ。かかってきたまえ」

 少し腰を低くしてどっしりと構えるデモン。
 対する及び腰の3人組。
 すでに攻守が逆転していた。
 そこに、

「待て待て待て〜い!!」

 高らかに響く誰かの声。と言うか紗羽人の声。

「だ、誰だ!?」

 デモンの雰囲気に飲まれていた3人組はこれ幸いと辺りを見回す。
 しかし、どこにも紗羽人の姿は無い。

「はっはっは! どこを探している!! 僕はここにいる!!!」

 再び聞こえる紗羽人の声だが、やはり3人組は紗羽人の姿を見つけられない。
 かく言うおれも、紗羽人を見つけることはできなかった。
 どこにいるんだ?

「ど、どこにいやがる!?」
「姿を見せろぉ!」

「だあぁっ!! 上、上だよっ!!!」

 きょろきょろと辺りを見回す3人組に痺れを切らしたのか、再び紗羽人の声。

「「「!!?」」」

 ・・・あ、いた。
 紗羽人は体育館の屋根の上で仁王立ちしていた。
 どうやって登ったんだ、あんなところに・・・?

「貴様らの悪行もここまでだ! とうっ!」

 なんかワケの分からん口上を述べ、紗羽人は体育館の屋根を蹴る。
 って、おい! 体育館の高さはゆうに20mはあるんだぞ!?

 紗羽人の体はふわりと宙に浮き、そして落下を始めた。
 そして、

 ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜、ごしゃあっ!!!
「おブッ!!!!」

 ことの他キレイに着地した。
 ・・・丁度見上げていたデモンの顔に。

 デモンはぷるぷると震えながらも何とか体を支えていたが、やがて力尽きたのか、ゆっくりと
仰向けに倒れた。
 紗羽人はそのデモンを踏み台にして軽くジャンプすると、すたっと着地する。
 ・・・何気に酷くないか?

「ぬうっ!? 出門君!?」

 そして、おもむろに振り返るとわざとらしく驚いた声を出し、紗羽人はデモンを抱きかかえた。

「出門君! どうしてこんな・・・こんな酷いコトを一体誰がっ!?」

 お前だ、お前っ!!
 そんなおれの心の突っ込みを無視し、紗羽人は3人組に顔を向ける。

「貴様達! こんな酷いコトをよくも!!」
「「「ええっ!!?」」」

 一瞬で罪を擦り付けられた3人組は、一斉に困惑の声を上げた。
 いや、まぁ、紗羽人のワンマンショーは今に始まったことではないが・・・これはいくら何でも
あんまりではなかろうか?

 困惑しながらも打ち合わせ通りに紗羽人と寸止めのケンカを繰り広げる3人組を見ながら、
これは学食一回じゃあいつらが可哀想だよなぁ、等とこの後のフォローに思いを馳せるおれであった。





 ───それからの数週間。
 紗羽人が繰り広げた作戦は、そのどれもがデモンを物理的にノックアウトして終わった。
 ついでに周りにも迷惑をかけまくった。


 『開かずの体育用具室』作戦。
    体育館の体育用具室 ─── 全壊。
    その中にあった用具 ─── とうぜん全滅。
    通りかかった体育教師 ─── 全身打撲で全治1週間。

 『鉄人の手作り弁当』作戦。
    教室棟の屋上 ─── なんか立ち入り禁止になった。
    貯水タンク ─── 水道が使えなくなった。
    おれの健康 ─── 早退を余儀なくされた。

 『ハットトリックは恋のおまじない』作戦。
    運動場 ─── 大穴開いた。
    サッカーゴール ─── 壊れた。
    クラスの生徒 ─── 保健室が大繁盛した。


 まぁ、おおまかな被害はこんな感じか。
 結果だけ見ると、明らかに失敗に見えるんだが。
 おれが、デモンに事の真相を話したところ・・・

「そうか・・・」
「あの、さ。紗羽人も悪気があったわけじゃ・・・」
「うむ。分かっているよ」

 他に誰もいない夕焼けの屋上。
 デモンは穏やかな表情で遠くを見つめていた。

「・・・一也」
「なんだ?」

 デモンがゆっくりと振り返る。

「誰かに好意をもたれるというのは、いいものだな」

 とてもさわやかな笑顔でそうのたまって下さいました。
 だ、だまされてる!?


 と言うワケで、紗羽人の作戦もまったくのムダではないようだった。



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