第三話 『その奥に潜むモノ』
その洞穴は、森の奥にぽっかりと口を開けていた。
両脇には松明が焚かれていて、その隣にゴブリンが一匹ずつ立っている。
「二匹か。できれば騒がれる前に片を付けたいな」
小声で言いながら、ドラジウは隣のセイラを窺った。
「ん〜、難しいですわね。距離がありすぎますわ」
彼らの潜む茂みから洞穴までは約20メートル。
ゴブリンは、その洞穴の両脇に、大体5メートルくらいの幅をおいて立っていた。
「そこをなんとか」
「ドラジウ様、わたくしを何だと思ってらっしゃいますの?」
手のひらを縦にして拝むようなポーズをしたドラジウを、セイラは半眼でねめつけた。
「セイラが一匹、残る全員でもう一匹を片付ければいいじゃん」
「残る全員でかかって騒ぐ間もなく倒せればいいんだがな」
「「うう〜む」」
戦力バランスが物凄く偏ったパーティだった。
全員が頭をひねったところに、レジーナが声を出す。
「と言うかですね、ドラジウ君が
全員の視線がレジーナに集まる。
「「………ああっ! その手があったか!!」」
「お、俺としたことが…」
セイラの強さに頼るあまり、自分が魔法を使えることをすっかり忘れていたドラジウであった。
「おいおい、しっかりしてくれよ、あんちゃん」
そんなこんなで一行は、ゴブリンに騒がれること無く洞穴への侵入に成功した。
さて、洞穴の中を進む一行。
先頭はフェイス。その後ろをレジーナと小鳥。次にドラジウ。
彼等の隊列はこんな感じである。
「小鳥さん、もう大丈夫ですか?」
「ああ、心配をかけてすまない」
隊列を見れば分かるとは思うが、小鳥は気絶から回復していた。
もっとも全快とはいかない様で、足元が少々頼りないが。
「つーかさ、ゴブリンの巣で罠を警戒する必要ってあんのかな?」
フェイスは辺りを警戒しながら、後ろを振り返った。
「あの魔獣のこともある、油断はしない方がいい」
「はぁ、高いテーブル代になっちまったかもなぁ………」
ドラジウの台詞で魔獣から味わった恐怖を思い出し、フェイスは身震いする。
「超過料金は、敵の親玉から徴収してやればいい」
小鳥も森での一幕を思い出し、表情を歪めた。そして、腰の刀をすらりと引き抜く。
「まずは、そこの子鬼どもに手付金をいただこうか」
小鳥の視線の先、暗がりの向こうからゴブリン達が現れた。
それと同時にフェイスが下がり、レジーナ達の後ろでドラジウと並ぶ。
「ん〜、じゃあやりますか」
言いながら、レジーナもバスタードソードを構えた。
眼前のゴブリンは三匹。全員素手。
「「ぎぎぃっ!!」」
一斉に襲い掛かってくる。
小鳥とレジーナは一瞬目を交わすと洞穴の左右に分かれ、同時に剣を横薙いだ。
「せやあっ!」「はぁっ!」
ズガッ!
ゴブリンは咄嗟に立ち止まり、あるいはしゃがんで剣撃をかわしたが、一匹は避けることが
出来ずに両断された。
「そらっ!」
そして、しゃがんだゴブリンにフェイスがナイフを投げる。
「ぎぃっ!」
ゴブリンはあわててそのナイフを避けるが、姿勢が崩れたところに白刃が閃いた。
ザシュ!
続いてもう一撃。
ドシュ!
ゴブリンは鮮血を撒き散らしながら倒れ伏した。
その奥から、刀を振り抜いて無防備になった小鳥目掛けてもう一匹のゴブリンが走る。
しかし、
「魔光弾!」
どごっ!
ドラジウの放った魔法の弾丸に弾かれ、
がしっ。
いつの間にか近くまで忍び寄ったセイラに掴まれた。
セイラは両手でゴブリンの右腕を掴み、魔光弾の衝撃を殺さぬように右足でゴブリンの足を払う。
ゴブリンの体が右腕を中心に天地逆転した所で足に手を添え回転を殺し、晒されたゴブリンの
喉元に左ひざを突きつけた。
「《
そのまま落とす。
ゴキャ!
顎がつぶれた。
肉が潰れ、骨が砕け、ゴブリンの頭は半分程まで圧縮される。
無論、命は無い。
まるで自らの墓標の様に地面と垂直に立ったゴブリンの体は、やがてゆっくりと倒れた。
「闘神の御技の前に、邪悪の生き延びる術はありませんわ」
「邪悪じゃなくても生き延びる術は無いんじゃないか?」
原形をとどめていないゴブリンの顔を見ながら、フェイスは大仰に首をすくめた。
「邪悪以外に御技を使うことはありませんもの」
「僕に思いっきり使ってなかったかい?」
「さぁ、先に進みましょう」
レジーナの突っ込みを無視し、セイラはフェイスの背中を押す。
「スルーですか」
「大福こそ邪悪だと言われないだけマシではないか」
「………それもそうですねぇ」
肩を落としたところを小鳥にフォローされ、レジーナも気を取り直したように歩き出した。
「う〜む、いまいち緊張感が足りてないんだよな」
ドラジウも首をかしげながらそれに続く。
まぁ、そんなこんなで一向は洞穴を進んでいった。どんどんいった。
途中で出会ったゴブリン達を張り倒しながらもずんどこいった。
そして───
やがて、彼等は最深部までやって来る。
そこは、闇の集う場所だった。
長い。幅10メートル程の通路が、真っ直ぐと延びている。
今まで進んできた洞穴とは明らかに違う人工的な通路。
その長い通路の奥に、───闇が集っていた。
光の加減。普通ならそう思う。
彼等もそう考えた。
しかし、近づいても、彼等が持つ松明が光をもたらそうとしても、通路にわだかまる闇は
消えるどころか、より一層その暗黒を際立たせるのだった。
「どういうことだ?」
ドラジウが首を傾げると同時、その声は闇の中から聞こえてきた。
「ようこそ、虫ケラ諸君」
「「!?」」
そして、それは闇の中から現れた。
ずるり、ずるりと、纏わり付く闇を引き剥がしながら、ゆっくり、一歩ずつ近づいてきた。
男。
身長は180センチ程か。真紅のタキシードを着た美丈夫。
異様な
いや、正装なのだが、この洞穴の中にあってはそれは異様としか言えない格好だった。
立ち止まる。
顔に愉悦の表情を張り付かせて。
「私の名前はシャザレイ。ああ覚える必要はないよ。君等はどうせ、ここで死ぬ」
なら名乗るなよ。 という突っ込みを却下しつつ、シャザレイは両手を広げた。
「貴様が親玉か!」
ドラジウは、頬を伝う汗もそのままに叫んだ。
緊張している。
理解していた。
目の前に立つそれの異常さを。
「親玉? ………ふむ、それは美しくないな」
シャザレイは、顎に手をやると、小首を傾げた。
「?」
「美しくない。美しくない言葉だよ、それは。そうだね…私のことは、
目を閉じ、再び両手を開くシャザレイ。
「否定はしない、か」
ふざけている様にしか見えないシャザレイを目にしても、ドラジウの緊張は解けなかった。
このパーティの中で一番の戦力はセイラだ。
そして、それに対して最も有効な戦い方ができるのも、やはりセイラだろう。
それ───つまり、悪魔族!
「ほう? 虫ケラの中にもそこそこ
シャザレイはドラジウを見て、唇の端をつり上げた。
「!」
「ふふ、その通り。お前達虫ケラに悪魔と呼ばれる存在。それが、私だよ」
周囲の闇が濃くなる。
ドラジウを射抜くシャザレイの目が、濁った赤色を放っていた。
「「悪魔族!?」」
闇の眷属。
邪神に造られし、
天使と対極を成す、神の子等。邪神に近いが故の超常。
それは、つまり、人の身には及びもつかない強大な力を有するということ。
ゴブリンや魔獣など、コレの前においては
「はははははっ! 感じるぞ、恐怖を! 怯えを!」
シャザレイは無造作に一歩踏み出した。
「っ!」
立ちすくんでいた一行から、小柄な影が飛び出す。
「はぁっ!!」
ぶぉん!
風切り音さえさせて拳を振るったのはセイラだった。
その拳には淡い光が
「闘神官の《退魔の拳》かね。それを喰らったらさすがに只では済まないな」
軽い口調。シャザレイは涼しい顔でその拳を見つめていた。
「くっ!」
ふぉん! ふぉん、ふぉん!
更に拳を振るう。しかし、拳はシャザレイにかすりもしない。
「はははっ! 凄まじいパンチだ。身の毛もよだつとはこのことか!」
台詞とは裏腹に、余裕に満ちたシャザレイの声。
一撃必殺の意を込めて放たれる拳の弾幕を、シャザレイは全て最小限の動きでかわしていた。
「っ!」
ふぉん、びゅおん!!
コンビネーションに蹴りを加える。しかし、その蹴りも空を切る。
「はぁっ!」
ぱしっ。
「!?」
不意に。繰り出した拳が止まる。シャザレイの手が、セイラの腕を掴んでいた。
「ふふふ、そろそろこちらからも行くかな?」
そして、手を離す。
「くっ!」
セイラは腕を引くと同時に蹴りを放って距離をとろうとするが、シャザレイは蹴りを
かいくぐりセイラに肉薄した。
「!」
やけにゆったりとシャザレイの拳が突き出される。しかし、
(かわせない!)
無造作に振るわれたシャザレイの拳を、ほとんど条件反射だけでガードした。
どっ!
鈍い音とともに、セイラは吹っ飛ぶ。
「っっ!!」
ずざざざ…!
飛ばされながら懸命に体勢を整え、着地した。ガードした腕が痺れている。
(なんて威力!)
内心で舌打ちする。甘く見ていたわけではない。
が、それでもなお目の前の悪魔は予想を超えていた。
「ま、まずくねぇか?」
目の前で交わされた数瞬の攻防を動くことも出来ずに見ていたフェイスが、不安そうに呟く。
「確かにまずいな。あのレベルでやりとりされては
小鳥も腰の刀に手をやり、しかしそこから動けなかった。
視線の先では、セイラとシャザレイの攻防が続いている。
「はぁっ!」
セイラが拳を突き出した。
シャザレイはそれを軽くかわすと、お返しとばかりに裏拳を見舞う。
セイラは体を捻ってその裏拳をかわし、その勢いのまま回し蹴りを放った。
シャザレイはそれを屈んで避け、軸足を軽く払う。
「!」
あわてて手を突き、追撃を避けるためにバク転して距離をとった。
シャザレイが動いていないのを見てとると、セイラは腰を落とし、左手で腹を押さえ、
右手を顔の前で猫の様に構える。
そして、深く息を吐いた。
「闘神技法・闘気術《
ボン!
そんな音を立てて、セイラの右手から青い湯気の様なものが立ち上り始める。
可視の領域にまで濃度を高めた『闘気』。
それは、武器を禁忌とし己の肉体を凶器とする闘神官が、唯一「武器」として認める闘神の加護。
触れたものを爆砕する闘神官の奥義である。
「ほう、それがガルティードの修行によって得られる闘気かね。私も見たのは初めてだ」
「ではついでに、その威力も味わってみてはいかがです?」
言って、地を蹴る。
「ははは、遠慮しておこうか」
肉薄、腕を突き出す。
ぶぉん!
当たらない。相変わらず、必要最小限の動きで避ける。
しかし、
「《
空振りした拳を避けたシャザレイに向かって振るう。
それもシャザレイは軽くかわす。
が、そのシャザレイを追うようにセイラの拳から闘気が放たれる。
それは言ってみれば弾丸のようなもので、明らかに避けられるタイミングではなかった。
闘気はシャザレイを逃がさず、触れ、
ズゴォォォン!!
爆発した。
「はぁ、はぁ、………」
セイラの拳から闘気が消える。その額からは大量の汗が吹き出ていた。
強大な威力の代償。闘気の使用は、精神を大きく疲弊させるのだった。
ぱちぱちぱち…
突然聞こえてきた拍手は、爆煙の中から発せられていた。
「はははは、まったく素晴らしい戦闘力だ。」
「!?」
収まっていく煙の中から姿を現すシャザレイ。
そのタキシードには、一点の汚れすら付いていなかった。
(まさか、今ので無傷!?)
愕然とする。
「来ると解っていなければ、流石の私も死んでいたかも知れないよ。セイラ・キリーク」
「「!!」」
「わたくしの名を!?」
その様子を見ながら、ドラジウは考える。熟考する。
(来ると“解って”いた? セイラの名を知っている? 何故だ。何故解る。何故知っている。
…考えろ。考えるんだ)
さらに思考の中に埋もれていく。
(そうだ、ヤツは最初に何と言った? 俺が考えていることを見透かすように悪魔だと名乗った。
セイラの魔法を見て《退魔の拳》だと断言した。セイラの攻撃を全て見切り、闘気術すらも防いだ。
それは何故か?
ならば何処から? 何をもってヤツはそれを識ったんだ?
悪魔は能力を持つ。人間には有り得ない超常の能力………まさか!)
総毛立った。あの悪魔は、あの化け物は、
「心が読めるのか!」
叫んだドラジウを見て、シャザレイはにやりと笑った。
「ふふふ、なかなか頭の回転が速いな。そう、その通り。お前達の考えていることが、
私には手に取るように解る」
「っ!」
セイラから視線を外したシャザレイに、セイラは一気に駆け寄る。
腹の奥底から湧き出る力をイメージし、踏み出す右足から踏む込む左足へと。
左足から腰へと。腰から右肩へと。
回転と捻りによって、力はイメージから現実のパワーへと変化する。
そして、右肩から右手へと伝わった力を、目前の標的に叩き込む。
「《転輪掌》!」
しかし、掌は空を切った。それどころか、突き出した右腕を掴まれていた。
「ふふ、不意打ちは無駄だ。不意を突こうとする意思が読める。」
ガッ!
シャザレイが振るった拳を、今度はまともに喰らう。
「「セイラ!!」」「セイラ君!!」「セイラ殿!?」
どっ、どっ、どう。
あまりの衝撃に受け身もとれず、数回のバウンドを経てセイラは倒れ伏した。
「…く、うぅっ」
ぶるぶると震える腕で体重を支え、体を起こす。
膝をつき、上体をもたげる。
殴られた頬は腫れ上がり、吹き飛ばされた衝撃で体のあちこちに裂傷が出来ていた。
「っ、はぁっ、はぁっ、………」
右手を腹の上、左手を胸の上、それぞれ押さえるようにし、目を閉じた。
「はぁっ、………ふぅ、ふぅ………」
少しずつ呼吸を落ち着かせる。両掌が光り始めた。
「神の差し出された御手は、彼の者の傷をみるみる癒したもうた。《ヒーリング》」
パァッ、と光が強まり、すぐに消える。
同時に、セイラの体に刻まれていた傷も消えていた。
シャザレイはその様子を黙って見つめている。
「さて、そろそろいいかね?」
「もちろん。お気遣い、痛み入りますわ」
笑みすら浮かべ、セイラは地を蹴った。
再び拳を交わし始めた二人を、ドラジウ達は成す術も無く見守る。
とうとう、堪えることができなくなった小鳥がドラジウに詰め寄った。
「ドラジウ殿! 某に強化魔法を!」
「………気持ちは分かるが、足手まといにしかならん」
沈痛な面持ちでドラジウが答える。
魔法で強化しても手伝うことすら出来ない。
それほど、セイラと他のメンバーの実力差は大きかった。
「しかし!」
更に詰め寄る小鳥。ドラジウとて何とかしたいのは同じ。
しかし、いかんせん手段が無いのだ。いくら考えても手立てが無い。
何をしても、結局はセイラの邪魔にしかならないのだ。
「くそっ、何か無心で攻撃する方法があれば………」
不意打ち。
実力差を考えれば、セイラの手助けをするにはシャザレイの不意を突くしかない。
しかし、心を読む能力を持つシャザレイに、不意打ちは不可能だ。
「はははは! なるほど、無心かね」
セイラの拳をかわしながら、シャザレイが笑う。
「確かに、完全な無心ならば心を読めても無意味だ。だがね」
ずばんっ!
セイラのハイキックを片手で掴む。
「生きている以上は、無心では有り得ないのだよ」
そのまま放り投げた。
「きゃああっ!?」
空中で姿勢を整え、なんとか着地に成功したセイラを、シャザレイは指差す。
「例えば、セイラ・キリーク。彼女は、闘神技法を使うとき以外。つまり通常の体術を駆使する
際には、特に意識をしているわけではない。つまり、今までの経験によって体が覚えた
闘い方が、意識よりも先、反射の域で出てくるわけだな」
「しかし、それですら、私には読める。見える。
かわす。殴る。かわす。蹴る。かわす。殴る蹴る。かわす。
「なぜなら」
殴る殴る。かわす。蹴る。かわす。殴る蹴る蹴る。かわす。殴る。かわす。殴る蹴る。かわす。
殴る─
ばしっ。 掴む。
「結局のところ、『動く』ということは、イメージを伴うのだよ。体など、言ってしまえば
只の肉塊でしかない。意識が、イメージがあって初めて肉体は動作するのだ」
ガッ!
「っ!」
シャザレイの拳をガードし、そのまま弾け飛ぶセイラ。体勢を整え、着地する。
「一手先を、二手先を。熟練すればするほど、達人になればなるほど。本人の自覚とは別に、
行動は意識される」
つかつかとセイラに歩み寄りながら、シャザレイは恍惚と喋り続けた。
「その意識を読むことが出来る。そう、それはもはや『未来予知』と言っても過言ではない」
セイラの目前まで辿り着き、シャザレイは目を閉じながら両手を開く。
そして、
ゴガッ!
鈍い音を立て、そのまま倒れた。
「!?」
突然の出来事に目を白黒するセイラが見たものは、バスタードソードを構えたレジーナだった。
「あははは、当たりましたねぇ」
「だ、大福様、どうやって………?」
呆然と呟く。
「うぬぬぬ、どういうことだ! 貴様は今確かに『腹が減った』と考えていたではないか!?」
がばっと起き上がったシャザレイは、猛然とレジーナに食って掛かった。
「はぁっ!」
その無防備な背中にセイラが殴りかかる。
「ちぃっ!」
かわした。しかし、シャザレイが始めて焦りを見せた。セイラは間髪いれずに蹴りを放つ。
「当たらぬよ!」
シャザレイはその蹴りをかわし、
ゴガッ!
何かにぶたれてバランスを崩す。
セイラはそれを見逃さず、空振りした右足を引き戻した。
戻した右足で地を踏みしめ、そこを支点に体を回転させる。
左足を浮かせ、腰の捻りによる力と回転の力を乗せた
ズガッ!
「があっ!」「はぁっ!」
更に、その反動を殺すことなく
ズドッ!
「うぐっ!!」「っ!!!」
跳ねるように上体を反らしたシャザレイの体に右掌を押し当てた。
左足を地に付けると同時、
「《重破》!」
ゴバァン!
「ぐああっ!?」
シャザレイは大きく弾け飛んだ。
どがぁっ!
洞穴の壁に思い切り叩きつけられて、倒れる。
しかし、シャザレイは大して間を置かずに立ち上がった。
そして、自分がセイラの攻撃を喰らったきっかけ、自分を殴った何か───って言うか、
バスタードソードを構えたレジーナを睨む。
「ど、どういうことだ、貴様!?」
「? 何がですか?」
激昂するシャザレイの問いに、レジーナは質問の意図すら掴めずに首をかしげた。
「貴様、今はセイラ・キリークの裸しか考えていなかったではないか!!」
「!!?」
そして、シャザレイの叫びに反応したのはレジーナではなくセイラだった。
…まぁ、当然か。
「ど、ど、ど、どーいうことですの!? 大福様!!!」
「あー、いや、ほらさ、セイラ君は随分と華奢なのにどこからそんな力が出るのかな、と」
顔を赤くして狼狽するセイラに、レジーナはのほほんと答えた。
「それがどうして裸なんですか!」
「あ、それはね、この前間違ってセイラ君の着替えを見ちゃったじゃないか、その時のことを…」
「きゃあああ! 何で覚えてるんですか! 思い出してはいけません! こうなったら…」
セイラは耳たぶまで真っ赤になると、レジーナに向かってダッシュした。
その目にはある種の光が宿っている。
「この手で忘れさせてあげますわ!!!」
「うわわ、セイラ君、物騒なこと考えてないかい!?」
「うふふふ、邪悪必滅…」
「セ、セイラ君、気を確かに!」
「成敗!!」
慌てるレジーナの懐まで辿り着いたセイラは、右足を直角に曲げて踏ん張り左足を下げ、
前傾姿勢をとって右肩をレジーナの腹に押し付けた。
その状態で、右手と左手を胸の前で交差させ、
「《
どずんっ!!!
レジーナの腹に思いっきり肘を突き刺した。
「っぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」
物凄い衝撃に、レジーナは吹き飛ぶ。
話の流れから置き去りにされて唖然としていたシャザレイに向かって真っ直ぐに。
「!?」
気付いた時には遅かった。
レジーナの体はシャザレイのスピードを上回る速度で飛んできた。
どがぁっ!
「ぬぐっ!?」「ぶべらっ!!」
そして、技を放つと同時に地を蹴っていたセイラは、その時には既に重なり合った二人に
肉薄していた。
「!! うぬうっ、邪魔だっ!!」
セイラの意識を読み、その攻撃の射線上に自分がいることを知ったシャザレイは、慌てて
自分に折り重なるレジーナを払いのける。
しかし、それが致命的なミスだった。
セイラの攻撃は、シャザレイに次の行動を許すほど遅くはなかった。
レジーナを払いのけることで無防備になったシャザレイに、セイラの両手が押し付けられる。
「《
グバン!!!!
重く鈍い音を立て、シャザレイの体がぶれた。
そして訪れる、耳が痛くなるような静寂。
シャザレイは不思議そうに自分の体とセイラとを交互に見て、そして、
「あ、が、ガ、ア………!」
ブパァァァァッ!!!
シャザレイの目、耳、鼻、口…穴という穴から血が噴き出した。
それは血液ではなく血霧。
セイラの両手から放たれた衝撃波はシャザレイの体内で暴れまわり、その細胞結合を解いていく。
その効果は真っ先に血液に現れ、血液を霧にまで分解しながら体の中から追い立てていった。
「ア、ガ、ハッ………」
ぐらり………どしゃっ。
そしてついに、シャザレイは倒れる。
「ちっ、上手く避けましたわね」
しかし、そんなシャザレイには全く
その目に宿った危険な光は加速度的に光量を増し………あー、つまるところ狂気に近かった。
「! ち、ち、ちょっと待って!! 今の技は喰らったら冗談抜きで…」
「うふふ、大丈夫ですわ。わたくしが責任を持って葬儀を執り行って差し上げます」
「うわあああああ、殺る気まんまんですかあああああ!!!」
ごそり。
そんな命を賭けた漫才が繰り広げられる中、遠くから見ていたドラジウ達はそれに気付いた。
「!? セイラ、レジーナ!!」
べちゃ…
湿った音を立て、立ち上がる。
「「え!?」」
ごきん、べき…ばき……
鈍い音を立て、肉が盛り上がる。
ぶちん、ずるぅっ…
その表皮を突き破り、尖った角が現れる。
コハァッ…
乱杭歯が生えた口から吐かれる吐息は、おぞましく醜悪な瘴気を湛え。
ぐるるるるる…
その眼には、抑えきれぬ邪悪な光を宿し。
「驚イタゾ。マサカ、コノ姿を晒スマデ追イ詰メラレルトハ」
人とは違う喉から、聞き取りづらい言葉をはいた。