Tactics 1−4 【激闘! 最速 VS 最凶】
「だから… ────」
私がランサーに真意を訴えようとした、その時───
「ふぅん… 随分と面白そうな話をしてるじゃない…」
可憐な少女の声がそれを遮った───。
「!!?」
突然の声に驚き、思わず振り返る。
そして、私たちの会話を遮った相手を視界に捉えた。
「……な?」
私達からの距離、数十メートル。 公園の入り口に佇むその者は───。
黒い背景に浮かぶ ───白い
この場所、この状況にあまりにもそぐわぬその容姿。 子供じみた体躯と幼さを残した顔つき、綺麗な銀髪… そして、その赤い瞳に宿る無邪気さ…。
その可憐さに目を奪われてとしても、決しておかしくはないだろう。
そう……。
「サー… ヴァント…?」
「ほぉ…」
驚愕に呻く私と、どこか楽しげですらあるランサーの声が重なる。
少女が背にしていたのは夜の闇などでは、ない。
それは、外灯をすら覆い隠す巨躯で佇む
そのぎらつく眼光と巨体から来る威圧感は数十メートル離れているここからでも、私を竦ませる。
その姿を見ているだけで精神が万力にかけられたが如く圧迫され、目眩すら覚えた。
恐怖という感情すら麻痺するほどの『死』がそこにそびえている。
「ぁ……」
私は、思わず驚愕の息を漏らした。
「まさか、サーヴァントがマスターでもない人間と馴れ合ってるなんてね…
それとも、聖杯戦争中にナンパするのが趣味なのかしら? ランサー?」
「ふん、取るに足らねぇ野暮用ってヤツだ…
ナンパは、この戦争に勝ち残ってから好きなだけするつもりだぜ…?」
軽口を叩きながらも、その表情に鬼気を滲ませるランサー。
彼は、巨人の方に向き直り、おもむろに私から槍を抜く。
「つぅ…!」
その痛みに顔を歪める私を───
「そら、
「──────!!」
ランサーは、片手で突き飛ばした。
「───そうなんだ、でも残念ね あなたはここで死ぬんだから
ほら、準備体操よ
───やっちゃえ、バーサーカー───」
「■■■■■■■■ーーーーー!!」
突き飛ばされ、信じられない勢いで回転する感覚の中で… 私は、その咆哮を聞いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つうぅ…う… ゲホッ」
私は、咳き込みながら体を起こした。
刺された左肩は焼けつくように痛み、強く衝かれた
「かっ… はぁ…っ」
その痛みを堪え、手近にあった木を手がかりにして這うように立ち上がった。
その時───
───ドォン! ドォォン! ズガァァァン!!
───爆音に大気が震える。
見ると、十数メートルほど向こうでランサーと鉛色の巨人 ───バーサーカー─── が戦っていた。
突き飛ばされた時に、眼鏡が何処かへ行ってしまったらしく、彼らの姿はあまりはっきりとは見えない。
それでも、二人の戦闘を見極めようと懸命に目を凝らす。
「……っ」
口の中に広がる血の味。 どうやら、地面に打ち付けられた時に口の中が切れたらしい。
突き飛ばされた距離は実に十メートル強。
体感したのは初めてだが、全くデタラメな力だな…。
「…く、乱暴な奴め…」
私は思わずそう呟く。 が、不思議と悪い気はしていなかった。
なぜならば、ランサーは私を突き飛ばす時… 確かに私を逃がそうとしていたのだから…。
あやつは、私の思ったとおり… いや、思った以上に『良い奴』なのに違いない。
「………」
─────ドゴオォォォォン!!
再び爆音が響き渡る。
「────っ」
私はその凄まじさに、思わず身を震わせた。
別に爆薬を用いた戦闘が行われている訳ではない。
バーサーカーの振るう斧剣… 武器と呼ぶにはあまりにも拙い、岩塊然としたそれが地面に撃ち込まれて爆音を発しているのだ。
「────!」
対するランサーは、先のセイバー戦のように直接打ち合ったりはしていなかった。
ひたすらに斧剣をかわし、時々思い出したように反撃をする程度だ。
さもありなん、セイバーにせよ、ランサーにせよ、その戦い方は『戦闘』のそれである。 そこには当然の如く『技巧』、そして『駆け引き』が存在している。
しかし、あのバーサーカーが振るう斧剣の一撃は、圧倒的にして純然たる『破壊』なのだ。
敢えて何かに例えるなら、暴風か土石流であろうか。
いかに技巧を極めようと、剣や槍で
打ち合えば打ち合っただけその猛威に身を削られ、反撃も防御も等しく巻き込まれて破壊されるだろう。
純粋ゆえに堅実、単純ゆえに脅威… それが
─────ズドン! ズドォォン!!
「ランサーのサーヴァントには最速の英霊が召喚されるって言うけど…
それは逃げ足の事なのかしら?」
「ちっ───」
少女の挑発に、ランサーは跳び退りながら舌打ちする。
───ブォン!!
「言うじゃねぇか……!」
苦笑しながら悪態をつくが、その声には少なからず焦燥が混じっている。
「だがよ、ショボい英霊を狂気で強化する
───ズガァン!
「───随分と自虐的じゃねぇか?」
「ふふふっ 勘違いしないでよね。
バーサーカーは、狂化による戦闘力アップを狙ったクラスだけど…
───今までは、弱い英霊でなくちゃ制御できなかったってだけよ───」
少女は心底楽しそうに微笑みを浮かべている。
───ブォン!
「はっ 成る程な!」
凄絶な笑みを浮かべてランサーは斬撃をかわした。
「てめぇになら、問題なしってか? おチビちゃん───」
───ギ、ギィン!!
そして、牽制に槍を繰り出す。
───バーサーカー─── サーヴァントの持つアドバイザーとしての機能を全て排除し、狂気による能力増強を施したクラス。
単純に、戦い勝つ事だけを考えたクラスであると───。
先程ランサーはそう説明してくれた。
そして、かつてバーサーカーのマスター達は悉く制御不能による自滅に陥ったとも───。
「うん、とーぜん───。
それに、アドバイザーなんて私には必要ないもの」
───ゴガァァァン!!
「なるほど… な、アインツベルンか───!」
──────シュタッ!
ふっと… 掻き消えたかと 錯覚させるほどのスピードでランサーは大きく後退する。
「ご名答。 わたしは、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン───」
少女の言葉とともに、バーサーカーが停まった。 悠然と佇み、その威容を月下に晒している。
「そして────
教えてあげるわ
わたしのバーサーカーはね… ギリシャ最大の英雄、ヘラクレスなのよ───」
「─────!!」
ランサーに緊張が走る。
アインツベルンがどうとか、それは私にはさっぱりだったが、ヘラクレスという英雄の名くらいは知っている。
ギリシャ神話において、全能の神ゼウスの血を引き、神々をも恐れさせた魔獣や怪物を次々と打ち倒した最高にして最強の英雄───。
───あれが、あの
「……なんと…」
私は思わず感嘆の声を漏らした。
サーヴァントがその『真名』を知られる事は弱点を晒す事…。
故に、聖杯戦争においては各マスターは自分のサーヴァントの真名を隠しつつ敵対するサーヴァントの真名を突き止めねばならぬという暗黙の了解があると言う。
しかし、だ、その名を以って伝えられる英雄に弱点など無いとしたら…
……それは最高のアドバンテージたり得るのではなかろうか。
「わかったでしょ?
あなたがどれだけ絶望的な戦いをしているか───」
イリヤスフィールが冷笑する。 それは、勝利への絶対的な確信であろう。
「惜しいな… 狂ってさえなけりゃ、最高の戦いが愉しめたってのにな……」
「ふふん、負け惜しみね」
「くくっ───」
ランサーは笑う。 その笑みが何を思ってのモノなのかは判らないが───
「ランサー…」
私はなぜか胸がざわつき、思わず物陰から出て声をかけてしまった。
「───“消えろ”と言ったぞ」
「───っ」
ランサーはそんな私を射抜かんばかりに睨みつけ、苛立たしげに言い捨てる。
眼鏡がなくとも、その
そのずっと向こうでイリヤスフィールが「あら、まだ逃げてなかったんだ? 変なの…」などと呆れ口調で言っているが、それはこの際無視させてもらおう。
「………」
ランサーと見詰め合い、しばしの沈黙。
そして───────。
「……嫌だ」
私は、搾り出すように、それでもはっきりと言い放った。
「あ?」
「───私は、まだお主に伝えるべきことを伝えていない…」
逃げる訳にはいかない。 少なくとも、己の真意を伝えるまでは。
「あのなぁ───」
脱力したように言うランサー。 どうやら怒りを通り越して呆れてしまったらしい。
そして、「嬢ちゃんが逃げたら俺も逃げれンだよ…」と、そんな事を口の中で呟いた。
なるほど、戦闘中に不自然なほど会話をしていた事も意識をランサー自身に集中させ、私を逃がす為だったという事なのだろう。
「どっちでもいいわよ、わたしは両方とも逃がさないから」
さも当然とばかりにイリヤスフィールが言い捨てる。 自分のサーヴァントの能力を信じきっているのだろう。 いかにも余裕綽々といった感じだ。
とはいえ、先の戦闘においては単純な速度なら身軽なランサーのほうが上だと見受けられた。
…それでも『逃がさない』と言うからには、何らかの策があると思われるのだが……。
───それなら、それでも、良い。
「そら、先方さんもああ言っておいでだ」
「………」
私とイリヤスフィールの言葉に口惜しさを滲ませてランサーは沈黙する。
ただでさえ不本意な『逃げ』をして、それすらさせぬと言うのだ。 最速を自負するランサーにとっては屈辱以外の何者でもなかろう。
「あの天狗っ鼻… 叩き折ってやろうとは思わんか?」
ならば、尻尾を巻いて逃げてやる必要など無いのだ。 戦って、イリヤスフィールの鼻を明かしてやればよい。
そんな意思を込めてランサーに言ってやる。
「………く
──────おもしれぇ」
ランサーは思いのほか簡単にその誘いに乗ってきた。 その顔には、他愛の無い悪戯を企む子供のような笑みが浮かんでいる。
その姿に、私の頬も自然と緩んでいくのが分かる。
そして、同時に奇妙な頼もしさも感じられた。
ああ─── 多分、そうだ。
彼は、自然体で純粋に『闘う』時が最も強い。
「ならば、決まりだ。
私が、お主の宝具を放つ隙を作ってみせよう」
「でもよ? 解っているとは思うが…」
ランサーの対するは最上級の
そして、そのマスターたるイリヤスフィールも容姿こそ儚げな少女だが、その本質は優秀な魔術師であるに違いない。
で、私は只の
この場で、私だけが無力。 そのような事はもはや言うまでもない。
「ああ、私が何かをするわけではない
ただ…… 今回だけ私の指示に従って欲しい」
「……もし、作戦が失敗なら… 俺ぁ、逃げる───」
ランサーは半眼でそう告げてくる。
それは率直な意思表示であり、消極的ながらも確かな同意であった。
作戦の詳細も確かめようともせず、ただ、半歩踏み出す。
───だから、解った。
今、この場、この戦いだけ、ランサーは私に槍を預けてくれたのだと。
「───私も、お主が宝具を放ったらここから離れる
その後で、きっちり話をつけよう」
「あ? なんで
「……あー、酷い事になるのでな。 ───ここが」
私は地面を指差しながら、戦闘後の風景を想像し眉をひそめる。 おそらく翌朝のニュースをド派手に飾るであろうその惨状に、当事者として記録される訳にはいかん。
……殺されるのだ。 主に経済的に。
「あ? ああ…」
瓦礫が散乱している周囲を見渡し、「もう十分酷いんだが?」 という顔で私を見ているランサー。
───いや、ランサー… もっと、だ。
「…ねぇ、こっちも暇じゃあないんだけど?」
いいかげん焦れてきたのか、イリヤスフィールが苛立たしげに言ってきた。
「おっと… おチビちゃんとはいえ、レディを待たせるのは失礼だったな」
「………」
肩をすくめながら言うランサーを、イリヤスフィールが睨みつけている。 単純に焦れてるだけかと思ったが、どうもそれだけでは無いようだ。
「ンじゃ、仕切りなおしと行こうか。 おチビちゃん?」
「……………」
む、さっきより怒気が増したぞ? もしや『おチビちゃん』の言葉に反応しているのか…?
中身も、見た目どおり子供なのだなぁ…。 いや、口には出さないが。
「遊びはおしまいよ、さっさと済ませてお兄ちゃんを殺しに行くんだから!」
「■■■■■■■ーーーー!!」
イリヤスフィールの言葉に、バーサーカーが咆哮と轟音を響かせながら突進してくる。
「好きに戦うといい、指示はその都度─────」
「おうっ!」
そして、ランサーも狂戦士を迎え撃たんと跳躍した。
──────ガキィィィン!
ぶつかり合い、火花を散らす二人のサーヴァント。
「………っふ…」
その情景に私は震える。
恐怖に、ではない。 ───歓喜だ。 あろうことか、私はランサーが槍を預けてくれた喜びに打ち震えているのだ。
戦場から離れ、ズキズキと痛む左肩に触れながら、私は少し考える。
私の心は、壊れてしまったのだろうか? ───と。
だって、そうではないか…。
バーサーカーのあの眼光、あの咆哮、あの災害然とした『破壊』。 それを前にして私は恐怖を感じていないのだ。
恐怖と言う感情自体が喪失してしまったかのように。
───だが、この局面、その方が好都合だとも言える。
こと戦場において、恐怖などという感情は邪魔以外の何者でもあるまい。
───壊れていても良い。
ランサーを勝たせる事ができるのならば…。
この心くらい、くれてやろう───。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
かくして、私は今、ランサーの望み焦がれた
───ガァン ズガァン ギィィン!
「───ハハハァ!! これだよ! 戦いってのはよォ!!」
剣戟の音に混じって、半ば狂気すらおびたランサーの声が響く。
先ほどまでとは打って変わり、ランサーの戦い方は積極的な攻め手へと変わっていた。
───ガガガガァン!!
バーサーカーの暴風然とした斬撃をかわし、逸らし、掻い潜り、真紅の閃光が迸る。
とはいえ、やはり相手もまた最上級の英霊。 閃光めいたランサーの刺突を幾度受けても、その鉛色の肌には傷付いた様子すらない。
…やはり、無謀か───?
「いや、弱気になるな…」
私はそう自分に言い聞かせた。
ランサーの刺突が百防がれようが、千弾かれようが、その様な事は問題にはならない。
勝利の鍵は、唯一つ『
「なによ、結局逃げ回ってるだけじゃないの
無駄なんだから、さっさと死んじゃいなさいよー!」
木の陰に隠れている私の死角でイリヤスフィールが苛立たしげに言い放った。
それを聞き流して、私はサーヴァント達の戦いを凝視する。
計るべきは、二人の攻撃の“
たとえ、コンマの後にゼロがひとつ余計に付くような刹那の攻防でも、別に私が戦うわけでも、その攻撃を避けろというわけでもない───
───拍を読み取るくらいなら私にも出来る。
そして、狙うタイミングは両者が同時に『引き』のモーションに入った瞬間だ。
何よりも重要なのは、誤らない事。 そして、決して迷わない事───。
「■■■■■■■ーーーー!!」
───ブォン!!
バーサーカーが、斧剣を逆袈裟に振り上げ───
「───右へ!」
私は声を張り上げた。
ランサーはその指示に些かの逡巡もなく右 ───振り上げた斧剣の正面─── に移動する。
結果───
───ゴガァァァン!!
───バーサーカーは真下に瀑布のごとき斬撃を降らせ、タイルで覆われた地面を深々と抉った。
無論、ランサーはその斬撃を受けてなどいない。
「
───ギギギギィン!!
心底楽しそうにランサーはバーサーカーを挑発しつつ、刺突の雨を降らせる。
「■■■■■■ーーーーーー!!」
───ズガァァン!!
「うぅーっ なんなのよ!?
お姉ちゃん、私を狙っているんでしょう!? だったら隠れてないで───」
苛立ちが募っているのだろう、半ばヒステリックにイリヤが言う。
出てきなさい、か? ───笑止。
サーヴァントを打ち破れなければマスターを倒せ─── これもまた聖杯戦争の定石なのだそうだ…。
確かに、この身も魔術師ならばそれも良かろう。
だが、私は魔術師というモノを知らぬのだ。 『何をしてくるか分からない』相手を迂闊に刺激するほど愚かではない。
だからこそ、こうして視界にすら入らないようにしているというのに。
「…やはり、経験不足のようだな」
見えもせぬイリヤスフィールの方を見やり、ひとりごちる。
もっとも、一般人に戦闘を引っ掻き回されるなどという状況… 普通ならあり得ぬだろうから、経験などあるわけがない。
何を考え、何に警戒すればいいのかすら───。
だが、逆に私は理解している。 一般人である私が持つ武器のひとつは『無力さ』であるという事───。
単純に結果だけ言えば、イリヤスフィールに私を消す事は容易かろう。
だが、それを行うに足る成果がないのだ。
私がランサーのマスターではないが故に、私を殺してもランサーは健在なままであるし、仮に私を殺す為にバーサーカーを差し向ければその分イリヤスフィールに隙が出来る。
無論、彼女自身が私に仕掛ける事もできる。 …だが、おそらくそれはない。
私が仕掛けても確実に返り討ちに出来る自信と、バーサーカーという護りへの絶対的な信頼があるからだ。
逆に、私が仕掛けてこないからと自ら私に近付くのは、自分に対する裏切りとバーサーカーという護りを自ら放棄する愚行だといえよう。
矮小で、無力で、未知数であるが故にイリヤスフィールは動けない。
イリヤスフィールはさぞやジレンマを感じている事であろう。
「ううぅー……」
……私の考えに同意するかのように、彼女のかわいい唸り声が遠くから聞こえてきた……。
……
……
───ゴガァン! ズガァン!!
そして…
「───退け!」
幾度目かの指示を経て…
──────ガギィイイイィィン!!
大地を揺るがし、地を抉った時のそれとは異なる大音響が辺りに響き渡った。
───見つけた。
これこそ私の戦術の中核───。
───私が、一般人であるという以外にもう一つ『例外』となる事象がある。
聖杯戦争において恐らくは大して重要ではなく、されど、この場において私が最も重要だと考える、それ。
私以外は全員『
だからこそ、私にしか解らぬ事がある。 私にしか編めぬ戦術がある───
私ならば───ランサーを…
「───…」
私は───
「………」
───この期に及んで、初めて迷った。
己の導き出した戦術の大詰めとなる一手。 その危うさ故に。
ただ一度だけ、ランサーにバーサーカーの一撃を正面から防御させる───。
それさえ成れば、詰みだ。
……だが、それは果たして可能か…。
あの暴風を一撃とはいえ、ランサーに防ぎきれるものなのであろうか…?
いや、それ以前にランサーがこの指示を『裏切り』と判断するかも知れない…。
そうなったら、全ては泡と消える……。
「………」
どうする…?
「……」
しばし、煩悶とする。
………
ランサーは、私のそんな思いをよそに、焦れるでも催促するでもなく戦いに興じている。
……
本質的に霊体であるサーヴァントに疲れなどと言う概念があるのかは疑問ではあるが、悠長に構えてもいられまい…。
だが…
───ゴガァン!!
もはや、聞き慣れたとさえ感じるニ十数度目の爆音。
…決断は、未だ、できない……。
───ヒュッ ───ゴッ!
「つっ───!?」
タイルのほんの小さな破片が私の額に命中した。
切れてしまったのか、額を血が伝い落ちてくる。
「………」
跳ね返って足元に転がる破片。 それはまるで───。
「………む」
ランサーの拳骨のようだった。
─────そうだ、何を迷っている!?
彼は私を信じて槍を預けてくれた。
ならば、私も信じなければ。 ランサーが『信じてくれている』と!
「───うむ!」
迷いを振り払い、戦いを改めて凝視する。
奇しくもその場面は、まさに私の望む瞬間であった。
真正面から対峙している二人。
「仕留めなさい、バーサーカー!」
───バーサーカーが斧剣を振り上げ、振り下ろす。
それを避けようとするランサー───。
「
「─────!!!」
ともすれば、自殺命令とも取れるその指示に──────
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーー!!」
ランサーは、雄叫びで応えてくれた。
刹那─── 真紅の槍が
───ギギギギギギギギギギギギィィィン!!!
斧剣を真下から打ち上げるランサーの裂帛の
私は───
「───おお…」
初めて、破壊の瀑布が逆流するさまを見た───。
紅い火花を引いて押し戻されたバーサーカーの斧剣。
「うそ…」
あり得ぬはずの事態に驚愕するイリヤスフィール。 いや、最も驚いていたのは、あるいはバーサーカーだったかも知れない───。
いずれにせよ───
「これで、詰みだ!!」
胸が、熱くなる。 ランサーは私の指示に予想以上の
槍を天に突き出した彼の姿は、瓦礫に脚を半ば埋めて片膝をついていながらも、雄々しく、誇らしい。
「───! 調子に乗ってぇ!!」
「■■■■■■■ーーーーー!!」
イリヤスフィールの怒声に、バーサーカーはこれまで片手持ちにしていた斧剣を両手持ちに切り替え、大きく振りかぶった。
それは、ランサーをもはや生かさぬという意志の表れか、あるいは狂気の内に在るヘラクレスとしての誇りがそうさせるのか───。
───ならば、見せてみよ!!
「「バーサーカー!!」」
私とイリヤスフィールの声が重なる。
「「本当の力を───
───見せてやりなさい!!」
───見せてもらうぞ!!」
だが、その意図は真逆。
─────イリヤスフィールよ、お主の負けだ。
信頼とは、何もせずに
お主のその手で120%の
それが、共に戦うという事であろう。
今、この場で───
『闘って』いないのはお主だけだ─────!!
「■■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!」
バーサーカーが咆哮する。 その両腕には、大地をすら砕かんばかりの力が漲っているのが判る。
────受け取れランサー。 これが、勝利の鍵だ!!
「接敵───!!」
ランサーは、 ───あるいは私の指示よりも早く─── 槍を虚空へ溶かし、バーサーカーに肉迫する。
斧剣を振り下ろすバーサーカーの懐に入り込み、バーサーカーを睨め上げる徒手のランサー。
打ち下ろされる瀑布の裏側で睨みあう二人。
その刹那の交錯に二人の戦士は何を思うのか───。
「───離脱!!」
─────ゴガアアァァン!!
斧剣が大地に打ち下ろされるのとほぼ同時に、ランサーは真上に跳んだ。
そして、バーサーカーの顔面を蹴りつけ、そこから一気に離脱する。
「なによ、そのくらいで───」
イリヤスフィールが言い終えるより早くそれは成る。
───ガラガラガラガラ……!!
バーサーカーの足元が陥没し始めたからだ。
「え───!?」
予想外の出来事にあっけに取られるイリヤスフィール。
そう、これが私の作戦だ。
私たちの足元にある地下駐車場の天井をバーサーカー自身にぶち抜かせて隙を作る───。
普通なら、あまりにも破天荒過ぎて策とすら呼べぬような実現不能策だが、バーサーカーの怪力ならばそれも実現可能となる。
ここにソレがあると知っているからこその───
───私にしか編めぬ戦術だ。
「ヒュゥ…♪」
足場を失い瓦礫と共に落ちゆくバーサーカーを空中から見下ろしながらランサーが口笛を吹いた。
さしものバーサーカーも立つ足場がなくば満足に動けまい。
……下敷きになった乗用車やバイクの持ち主には悪いが、これも運命と諦めて頂きたい。
「───ナイスだぜ、嬢ちゃん!」
ランサーが不敵に笑い、その手に宝具を再び具現させる。
刹那、世界が紅く荒れ狂う─────。
「“────
因果を逆転させる真紅の魔槍は、悦びに打ち震えるが如く音もなく吼えた。
「“────
開放される真名───。
セイバー戦での
───ギュオオォォォォン!!
猛り荒ぶるそれは虚空で逆流し、バーサーカーへと押し寄せた─────。
Tactics 1−5 【いくさびと⇔オンナノコ】
───タッタッタッタッタ………
私は、薄明るいコンクリートの
ここは、海浜公園から未遠川に沿って続いている地下道だ。
私も市の都市開発資料を読んでこれらの存在を知ったのだが、 ここからあと数キロメートルも遡れば巨大な『地下遊水地』がある。
実は海浜公園の地下駐車場も含め、これらの地下施設は本来未遠川が氾濫した時に備えて作られたものなのだ。
とはいえ、市の記録を見る限りはこの地下空間を必要とするほどの豪雨は数年に一度あるか無いかだ。 なぜ海浜公園の地下が駐車場として活用されているかは、このあたりから察していただきたい。
税金の無駄遣いと言うなかれ、その災禍に対する備えなくしては今の冬木市の繁栄も無かったのだから。
ともかく、私はランサーが宝具を放った瞬間、一目散にこの地下通路の入り口を目指した。
故に、戦いの結果は見届けていない。 まあ、あの状況なら10中10までランサーの勝ちであろう。
だからこそ、こうして走っているのだ。
運良く目撃者は存在していなかった(と、思われる)が、あれほどまでに破壊の音を撒き散らせば遅かれ早かれ人を呼び寄せるのは必至。 故に私は、誰にも邪魔されず落ち着いて話し合える場所を、出来るだけ遠くに用意せねばならなかったのだ。
───ランサーのために。
私は、脇にあった広さ約60センチ四方の排水口に身を躍らせる。
───ザザザァ!
数メートル滑り降りて辿り着いたのは、先程よりふた周りほど広い地下道。 ───地下水路の本筋だ。
コンクリートの隙間から滲み出した地下水がチョロチョロと流れる音が聞こえてきた。
当然といえば当然だが、通路と兼用されていた上と違って、ここには光源と呼べるような物は存在しない。
私は、携帯電話の画面を開き、せめて手元だけでもと即席の光源とした。
そして、転がっていた荷物を拾って土埃を払う。
「さて…────」
ここまでお膳立てをして、ランサーが来てくれなければかなり間抜けなのだが…。
カツン… カツン…
唐突に聞こえる何者かの足音。
ここに廃鉱に住み着く某老人のような者でもいない限り足音の主は一人。
「よ、嬢ちゃん」
「ランサー…」
期待通り、というべきか… 現れたのはランサーだった。
「……戦いは、どうなった?」
聞くまでも無い。 ランサーがここにこうしている以上、バーサーカーを打ち破った思って間違いない。
「残念ながら」
そうだろう、そうだろう…。
「─────って、なんとぉ!?」
───とぉ… とぉ…
木霊して闇の中に消える私の素っ頓狂な声。
今、『残念ながら』と仰いましたかランサーさん?
あの決定的ともいえる
「……な、なぜ故に?」
その言葉がにわかには信じ難く、私は愕然としながら問いかけた。 言葉も些かおかしい。
「…やられたぜ、まさか概念武装で固めてやがるとはな…」
「───概念… 武装…?」
初めて聞く言葉だ。 言葉尻からはその輪郭が全く見えてこない。
「ああ、特定条件に合致する攻撃全てを遮断する… あの肉体自体がそういう特性を持ってやがるんだよ」
「肉体が… 武装…なのか?」
「まぁ、その辺は言葉のアヤってヤツだ。
とにかく、俺の
「そんな……」
その事実にしばし呆然とする。 なんと言うデタラメ、イリヤスフィールの余裕の根拠はそこにあったのか…。
ランサーの
「まぁ、いいじゃねぇか。 おかげで腐れマスターの意向に背かずに済んだんだしよ」
気楽に笑うランサー。 その表情には、やはり諦めが含まれているように見える。
………
「そんな事よりも、な」
───ガッ
「くっ」
言うが早いか、ランサーはおもむろに私の肩を掴んでくる。 そして───
───ズブッ
「くぅっっ…… な、なにを……」
そして、わたしの肩の傷口に親指を捻じこんできた。
凄まじい痛みに、私は歯を食いしばって耐える。
だが、その行為に文句は言えない。 もとよりランサーは、殺す為に私に関わっているのだから。
「ふん…」
一方のランサーは、私を詰まらなさそうに半眼で見ている。
そして、肩から手を離し、その血をぺろりと舐めた。
「………ラン… サー?」
傷を捻じ開けられた痛みに半ば朦朧としながら私はランサーを見やる。
そんな私に手を伸ばしてくるランサー。
……ぷに
「は…?」
…ぷにぷに
「おお、なかなか…」
状況がわからず、暫し唖然とする。
ランサーが…
なぜか…
私の、 ■を…
…揉んでいる。
……
「結構、胸あるんだな嬢ちゃん」
そう、胸だ。 胸…
って、胸────────────っっっ!!?
「な、ななな、な─────
何をしとるかこの痴れ者がーーーーーー!!」
足先から頭頂部まで、全身の血液が一気に沸騰する。
こ、ここ、こやつ!
よりにもよって わたしの───!
反射的に私はランサーの頬を平手打ちにした。
───ぺち。
「……?」
何か変だ…。 平手を避けようともしないランサーもだが、それよりも平手の音がやけに腑抜けている。
───ズクンッ!!!
「あ…───」
瞬間、私の痛覚が数倍に跳ね上がった。
傷口のそれは痛いなんてものではない。 それこそショック死でもしかねないほどの───
何が、一体─── 痛い… 思考が─────
激痛で、マトモに─────熱イ─────考え、らレナい…
ああ、痛… 傷ぐチ… 焼カ… キ
息がデキ…ない 槍の───傷 イタ… 体中が… アツい塊 熱を、捻じ…込ま… ■が狂イ───嫌ダ…
痛いイタい 怖イ いっそ■しテ───ダメ… 痛イ… 助け─────
「 …ッ ……ッ ──────」
激痛を放つ肩を中心に、私の身体は信じられないほどの熱を帯びていた。
かくんと全身が弛緩し、その場に崩れる。
どんどん視界が霞む、意識も濁って……─────。
………
………
混濁している意識の中、どのくらいその激痛に耐えただろうか…。
その変化は、唐突に、それでいてゆっくりと現れた。
「はぁ… あ…」
傷口のあたりがじんわりと暖かくなってきたのだ。
痛みを、傷痕を、優しく包み込んで癒してくれるようなぬくもり。
「ん………」
風呂の中でまどろんでいるかのような感覚にもう暫く浸っていたかったが、そうもいかぬので、私はゆっくりと目を開けた。
「あ……」
目の前には、穏やかな表情のランサーがいた。
「今、癒しのルーンで治療してる。
動くんじゃねぇぞ」
ランサーは、どういう訳か私のことを治療しようとしてくれているらしい。 傷口のあたりを目線だけで見やると、左肩は制服を剥ぎ取られ、そこにランサーが手を添えていた。 この状況、いろいろと思う事がありそうなものだが、どうにも思考がはっきりしない。
「………」
口を開くのも億劫だったので、小さく頷いて応えた。
「それにしても、とんでもねぇな嬢ちゃん」
「?」
何の事か解らぬと首を傾げる私に、ランサーは簡単に説明してくれた。
ランサーの持つ
そして、傷口から浸透してくる呪いは、同時に対象者の苦痛を倍加する。
英霊や、その道に通じる者ならともかく、私のような者が痛みに耐えながらあれほどの事をやってのけたのがそもそも在り得ない事だという。
「多分、だがな。
さっきまでの嬢ちゃんは、妙なスイッチが入ってたって事だろうよ」
つまり、私自身が極度の集中と緊張によって、痛みを緩和し、発熱を自覚できないようにしていたというのだ。
それを、私に“女”を意識させる事で、“素”に戻そうとしたのだとランサーは言った。
彼の言うとおりなら、私は先程のように無様に悶絶していたのがむしろ当然だったと言う訳か。
───って、もっと他にやり方は無かったのか!?
いくらなんでも、胸をいきなり揉むというアレは女性にとって恥辱以外の何物でもないぞ。
「……助平め」
触られっぱなしと言うのもアレなので、とりあえず反撃。 するとランサーはこともあろうに睨みつける私を笑い飛ばしおった。
「あっはっはっはっは…!
可愛いな、お前。
いや〜、随分達観してやがるから、とっくに女を捨ててるかとも思ったんだが、ちゃんとイイ顔もできんじゃねぇか」
「な……!?」
それなりに鋭い目つきで睨みつけていたつもりが、ランサーはそれをして“可愛い”と称する。 そして、私は私で、そんなランサーに腹を立て、さらに鋭く睨みつけた… 筈なのだが…。
「やめとけ、皺が増えるだけ損だぞ…
それにな、今の嬢ちゃんじゃあ、どんなに睨みつけても可愛いだけだぜ」
「………」
根拠は全くもって不明ながら、恐らくこの調子では何を言ってものれんに腕押しヌカに釘。
ランサーを堪えさせる事などできまい。 それに、もっと優先させねばならぬ事もあるしな…。
順当に考えれば、ランサーはもはや私を殺すつもりなどないだろう。 でなければ、私をその手で癒したりなどするまい。
だからといって、それで終わりとする事は今の私にはできない。 私は生き延びたいから語らうのではなく、語らいたいから生き延びようとしたのだから。
私は、目を閉じて、背後の壁に頭を預ける。
「ランサー、ひとつ訊いて良いか」
「あ?」
「お主の願いは… 叶ったか?」
それが、今私が最も気にしている事。 私が、生き延びなければらないと思った
だって、許せないではないか。
───『死力を尽くした戦いがしたい』─── そんな単純な事を願いながら、それが叶わない。
ただ、
何よりも、ランサー自身がその事を既に
「いや…、正直まだ不完全燃焼ってトコだな」
ランサーはそう言って息を吐く。
「そうか…」
まぁ、それはそうだろう。 その手に勝利を掴みかけたとはいえ、あれは私の猿知恵によるところが大きい。
「───ひょっとして、ひょっとするか、嬢ちゃん?」
ランサーの言葉に私は目を開いて小さく頷く。
「うむ… 私はお主に諦めていて欲しくなかった
諦めたまま終わっていくお主に、
はい、さようなら… など、それこそ性質の悪い逃げに他なるまい?」
「…はぁ、参ったなこりゃ」
ランサーは呆れたように言う。
って、何だその目は。 思いっきり馬鹿にしてないか?
確かに、馬鹿げているかもしれんさ。
『そんな事』を伝えたいがために、自分を殺そうとしている者のために戦場に残ってその戦いに立ち会うなど、余程の変人か… 頭がヤられている人間かどちらかだろうよ。
───だがな、私はどちらでもないぞ!?
「…そこまでされちゃあ、英霊の俺が諦めている訳にゃあいかねぇか…」
せいぜい、生き汚く立ち回らねぇとな…」
はははと、苦笑するランサー。
「ぜひそうしてくれ、そうでなければ私が
少々剥れながらも私はその言葉に応えた。
あえて言っておくが、客観的な話はしていない。 殺されれば、私は死ぬ。 どんなに硬く決意したところで、その結果は覆らない。
そうとも、私は覆したい訳ではない。 ただ、この身、この命の潰えるまで生き続ける事を諦めないと誓いそれを示したかっただけだ。
諦めなければ願いは必ず叶う… などと、安易な事は言えない。 だが、ただひとつ。
「諦めなければ、決して終わる事はない… 」
例えこの戦争が終わっても、きっと次はある。 きっとだ…。
「そうだな…
そう思いたいもんだ」
ランサーは、微妙に後ろ向きな事を言う。 だが、その瞳にはあのとき惹かれたあの輝きが、ほんの少しだけ戻っていた。
これで、とりあえず言いたいことは言った訳だが…
「………」
「………」
お互いにしばしの沈黙。 治療はまだ終わらないらしく、ランサーの手はいまだ肩に添えられたままであるし、傷口も痛みこそほぼ引ききったものの違和感となって存在を知覚できる。
「なぁ… 嬢ちゃん」
そして、ランサーが
「お前、頭良いけど、馬鹿だろ」
出し抜けにそんな事を言った。
「んなっ!?」
いきなり何を失礼な!?
「戦術、知識、判断力どれも悪くねぇ
ガチガチに理論で固まってるかと思いきや、ソイツを感情で運用していやがる───
ま、冷静にブチ切れてるてとこか」
「何を言う、私はいつも────」
「冷静な人間が、あんな事考えるかよ…」
───冷静だ。 という前にランサーに遮られた。 うむ、正直私も自信がなくなってきた所だ。
「……すまん」
「いや、謝られてもな
ところで、ここはどこだ?」
「わからぬままで来たのかお主は?」
「霊体化して、地面をすり抜けてきたんだよ俺ぁ」
なるほど、そういうことか。 それでは分かるはずもないな。
不機嫌そうなランサーに私は簡単に説明する。
だが…。
ランサーは話を振ってきたくせにイマイチ興味なさげだった。
全く、失礼な…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、治療は終わりだ。
しばらくはダメージが残るから、あまり無理はすんな」
二人揃って立ち上がる。
ランサーは、コキコキと肩を鳴らし、私は制服を直す。
壁の下の方を見るとなにやら不思議な文字が刻まれていた。 なるほど、これがルーン文字というモノか。
「ああ、すまない…」
そういう私に、ランサーはにっこりと笑いかける。
「いいってことよ
いい戦いをさせてもらった礼ってことで、受け取っときな」
「そう言ってもらえると嬉しい
…ありがとう」
こんな私でも力になれたのなら、それを誇りたい…。
ランサーの笑顔はそういう笑顔だった。
「それとな、嬢ちゃん─────」
「??」
「俺的には、今の
やっぱり、戦士の
「?」
ランサーが、私の頭に手を伸ばす。
「乳臭いガキには似合わねぇって」
「…───ちっ!?」
そして、思わず声を荒げて反論しようとした私の頭をくしゃくしゃっとなでる。
「な、何をっ…!」
それに驚き、閉じていた目を開いた時には、その姿は闇に消えていた。
ただ、「いい子だから、明日からはお家でおネンネしてな…」という言葉を残して。
………ランサーの奴め…。
…少しは、認めてくれていたと思っていたのに……。
最後の最後で───
「───子供扱いか!!?」
怒りに任せた私の叫びは、地下水路の闇に空しく響き渡るのみだった…。